大判例

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札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)18号 判決

控訴人

和島興業株式会社

右代表者

山崎周治

右訴訟代理人

大塚重親

右同

高木常光

被控訴人

司商事株式会社

右代表者

山内義男

右訴訟代理人

千葉健夫

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の建物について、旭川地方法務局昭和三七年四月一三日受付第七九九六号をもつてなされた同月一一日贈与を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三  被控訴人は控訴人に対し、金二五五万円及びこれに対する昭和四八年一一月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

五  この判決第三項は仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求の原因第一項の事実〈編注・本件建物が控訴人の所有であつたこと、被控訴人のため所有権移転登記が経由されていること〉は、当事者間に争いがない。

二被控訴人は、贈与によつて本件建物の所有権を取得した旨主張するので検討する。

〈証拠〉によると、和島勇三郎、和島いと、矢代好雄こと矢代洪士、高畑春雄は、昭和三一年九月一六日本件株主総会決議により控訴人の取締役に選任され、和島勇三郎は、同日本件取締役会決議により控訴人の代表取締役に選任されたが、昭和三三年九月一六日全員取締役を退任し、以後昭和三七年六月二八日新取締役が選任されるまでの間、それぞれ取締役、代表取締役の職務権限を行使したこと、控訴人は、昭和三六年秋頃控訴人代表取締役であつた和島勇三郎との間で控訴人所有の本件建物につき本件贈与契約を締結し、その頃控訴人取締役会の承認を受けたこと、被控訴人は、昭和三七年三月二〇日頃和島勇三郎から本件建物の贈与を受けたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。従つて、被控訴人の右主張は理由がある。

三次に控訴人は、本件株主総会決議取消判決の確定によつて本件贈与契約は無効となつた旨主張するので検討するに、本件株主総会決議が最高裁判決によつて取消されたことは当事者間に争いがなく、右事実に〈証拠〉によると、別件訴訟の最高裁判決(同庁昭和三九年(オ)第八八三号、上告人大竹米治、被上告人控訴人)において、昭和四七年一一月八日本件株主総会決議が取消され、かつ本件取締役会決議も、右株主総会決議の取消によつて決議の時に遡つてその効力を否定された結果、無効が確認されたことが認められる。右事実によると、本件株主総会決議は、その取消判決の確定によつて昭和三一年九月一六日の決議当時に遡つて無効となり、従つて本件贈与契約も控訴人を代表する権限のない和島勇三郎によつてなされたものとして、無効となるに至つたものというべきである。

四被控訴人は、本件贈与契約当時和島勇三郎は本件株主総会決議及び取締役会決議がいずれも有効で控訴人の代表取締役の地位にあるものと信じ、かつそう信じたことに過失がなかつた旨主張するので、次にこの点について判断する。

〈証拠〉によると、次の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

1  控訴人は、昭和一五年一〇月二五日和島興業有限会社として設立され、昭和二四年二月五日株式会社に組織変更されたもので、資本金は二〇〇万円、発行済株式総数は二万株、そのうち一万六、〇〇〇株を和島勇三郎が所有し、残余はその一族及び従業員が所有していた。

2  和島勇三郎は、控訴人の代表取締役として会社経営に当つていたが、事業不振に陥つたため、昭和二八年五月初旬当時一〇〇株の株主であつた大竹米治に経営を全面的に任せることになり、無価値に等しかつた自己の所有株式一万六、〇〇〇株を同人に対し意思表示のみによつて譲渡した。その結果、同月九日旧取締役全員が辞任し、新たに大竹米治らが新取締役に就任した。控訴人も右株式譲渡を承認して備付の株主台帳にその旨を登載し、同年六月二五日株券を発行し、大竹米治に対して右一万六、〇〇〇株についても同人を原始株主として表示する株券を交付した。

3  しかるに和島勇三郎は、その後大竹米治に対する前記株式譲渡の事実を否定する態度を取るようになり、昭和三一年和島いとと共同で旭川地方裁判所に対し、株主総会招集許可申請をなし(同庁昭和三一年(ヒ)第六号事件)、同年八月三〇日招集許可決定を得たうえ株主総会を招集し、同年九月一六日和島勇三郎宅で株主総会を開催し、大竹米治ほか三名の取締役と二名の監査役の解任決議及び和島勇三郎、和島いと、矢代好雄こと矢代洪士、高畑春夫の取締役選任、菅功の監査役選任の決議をした。その結果右の者らが新たに控訴人の取締役、監査役に就任したが、右の者らは同日さらに新取締役四名による取締役会を開催し、和島勇三郎を控訴人の代表取締役に選任する旨の決議をなし、これによつて和島勇三郎は控訴人会社の経営権を再び掌握するに至つた。

4  ところで前記株主総会は、和島勇三郎が依然として控訴人の株主であるとの前提の下に招集したものであつて、大竹米治、和島勇三郎、和島いと、矢代好雄こと矢代洪士の四名が出席し、大竹米治が一〇〇株、和島勇三郎が一万六、〇〇〇株、和島いとが一五〇株、矢代洪士が一、五五〇株、合計一万七、八〇〇株の株式を有するものとして議決権を計算し、途中退席した大竹米治の株式を除く一万七、七〇〇株の株主の賛成意見によるものとして、本件株主総会決議を強行したものである。しかしながら、和島勇三郎は、前記のとおり事業不振に陥つていた会社経営から退陣し、今後の経営再建を大竹米治に一任し、自ら進んで所有株式全部を同人に譲渡したものであつて、同人に対して右譲渡の事実を否定する余地のないことは充分に承知していた。

5  大竹米治は、昭和三一年九月二一日別件訴訟を提起し、本件株主総会決議、取締役会決議の各無効確認(本位的請求)及び取消(予備的請求)請求、和島勇三郎の株主の地位不存在確認請求を求めた。第一審の旭川地方裁判所は、昭和三五年二月一九日本件株主総会決議、取締役会決議無効確認請求を棄却、右各決議取消請求を却下し、株主の地位不存在確認請求については、和島勇三郎、大竹米治間においては、前記株式譲渡は有効であるとして和島勇三郎に対する請求を認容したが、控訴人との関係では、商法二〇四条二項により前記株式譲渡は無効であるとの法律解釈により、控訴人に対する請求を棄却した。右判決に対し、大竹米治、和島勇三郎がそれぞれ控訴し、礼幌高等裁判所でさらに審理されることとなつた。

6  和島勇三郎は、別件訴訟が礼幌高裁に係属中の昭和三六年秋頃控訴人から本件建物の贈与を受け、次いでこれより先の同年二月一六日に設立し自ら代表取締役に就任した被控訴人に対し、昭和三七年三月二〇日頃本件建物を贈与した(右贈与当時被控訴人の代表取締役が和島勇三郎であつたことは、当事者間に争いがない。)。

7  別件訴訟の最高裁判決は、控訴人に対する関係においても前記株式譲渡は有効であるとして、本件株主総会決議を取消し、取締役会決議の無効を確認した。

ところで被控訴人は、前記のとおり和島勇三郎は本件贈与契約当時控訴人の代表取締役であると信じていた旨主張するが、本件全証拠によつてもこれを認めることはできない。かえつて、前記認定事実によると、和島勇三郎は、本件株主総会決議、取締役会決議当時すでに自己の所有株式一万六、〇〇〇株を大竹米治に譲渡済であつて株主の地位にはなく、従つて右各決議には商法、定款に違背する瑕疵があり有効に代表取締役に選任されたものではないから、本件贈与契約は無効であることを、和島勇三郎は本件贈与契約当時から知つていたものと認めるのが相当である。よつて、被控訴人の右主張は採用しない。

五被控訴人は、和島勇三郎から本件建物の贈与を受けた昭和三七年三月二〇日頃以来所有の意思をもつて平穏かつ公然にこれを占有し、占有のはじめ善意、無過失であつたとして、一〇年間の取得時効を援用するので検討するに、被控訴人が昭和三七年三月二〇日頃和島勇三郎から本件建物の贈与を受けたことは前記認定のとおりであるが、右当時被控訴人において和島勇三郎が本件建物の所有権を有するものと信じていたことを認めるに足りる証拠はなく、かえつて右贈与当時の被控訴人の代表取締役が和島勇三郎であつたこと及び前記認定事実によると、被控訴人は和島勇三郎が本件建物の所有権を有しないことを知つていたものと認めるのが相当である。従つて、被控訴人の右主張は採用しない。

六そこで控訴人主張の賃料相当損害金請求について検討するに、被控訴人が本件建物を占有していることは当事者間に争いがなく、右事実に〈証拠〉によると、被控訴人は、本件建物を昭和四七年六月一日から昭和四八年一〇月三一日までの間賃料一ケ月一五万円で訴外国新産業株式会社に賃貸していたことが認められ、他に特段の主張、立証のない本件においては、右期間中に控訴人の蒙つた賃料相当損害金は一ケ月一五万円、合計二五五万円と認めるのが相当である。

七以上によると、被控訴人は控訴人に対し、請求の趣旨記載の所有権移転登記の抹消登記手続及び賃料相当損害金二五五万円とこれに対する昭和四八年一一月一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務がある。

よつて、控訴人の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく理由があるから正当として認容すべきところ、これを棄却した原判決は不当であるから、民事訴訟法三八六条によりこれを取消して控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(安達昌彦 渋川満 大藤敏)

目録〈省略〉

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